俗悪

2004年5月20日 音楽
パンテラ CD イーストウエスト・ジャパン 1997/12/15 ¥1,785

昔、クラシックしか聴かない友人が洋楽ロックも聴いてみたいと言い出したので、当時所有していたCDのほとんどがハードロック中心だった俺はボンジョビとかデフレパードなど無難なのを聴かせたあとにメタリカを聴かせ、まだまだいけそうだということで次にこのアルバムを貸してみたのだが、やはりというべきか「この叫んでるの何?」と不快な顔をして突き返されたのはいつの日のことだっただろうか。

このパンテラというバンドは昔デフレパードみたいなさわやかハードロック音楽をやっていたそうなのだけど、フィリップ・アンセルモという暑苦しいヴォーカルの加入に伴って、ロックに耐性がないととても聴いてられない暑苦しい音楽に鞍替えしたらしい。そうなってから「Cowboys From Hell」、これ、「Far Beyond Driven」、、、とアルバムをリリースするのだけど、これらがグラデーションのようにだんだん暑苦しさを増してくる様子はなかなか興味深い。
(「Cowboys〜」も同時に聴いてみたのだがレコーディング状態が良くないのか音がこもってる感じなのがちょっと残念)

さて、いったい何が暑苦しいのかというとまず見た目だ。
「ボウリング・フォー・コロンバイン」を作った図々しくてこれまた暑苦しいオヤジそっくりな、髪とヒゲが伸び放題の太った兄弟(Ds、G)と、
志村けんが酔っ払ったオヤジのコントをやるときのメイクみたいな顔で、目の下のクマが印象的でいかにもヤクやってそうな感じのスティーヴ・ブシェミ似の男(B)、
そしてスキンヘッドで、いつも上半身ハダカで怒ってる感じのこわもて(Vo)
という構成で、このアルバムの裏ジャケにはそんな彼らのナイスな集合写真が載っているので是非参照されたい。

そして、暑苦しい音楽性について。
今でこそKornとかが売れてヘヴィーミュージックが市民権を得たものの、これが出た頃はなんじゃこりゃ、ってぐらいに重苦しい音を出すので、(関連するせまい)世間はびっくりしたものだ。
どのぐらい太鼓の皮を張ればこんな音が出るんだろう、って印象の、とにかく硬質なドラム音や、ザクザクというよりはズビズビという擬音が似つかわしい、音圧、音のゆがみ具合ともに申し分なく個性的なギターの音、そしてとにかく叫びたがるヴォーカルなど、各々が出す音がそれはちょっとやりすぎだろうというレベルなわけで、こんなのいっぺんに聴いたら暑苦しいことこの上ないよ、という感じ。

そして実際暑苦しくはあるのだが、驚くべきは、それがただやりすぎな音を出してみただけで終わらないところにある。彼らの曲は、やはりというべきか不協和音みたいな音をわざと使ったりして暑苦しくはあるのだけれど、ズシンズシンと重い音が活きるリフを演奏しているかと思えば、いきなりメロウな曲調になったりなどなかなか芸達者。しかも、彼らはギタリストのダイアモンド(改めダイムバック)・ダレルを初めとしてかなりの技巧派ぞろい。
ヴォーカルだって、音程をつけながら叫ぶってのは実は高等技術なんじゃないかって気もするし、しかもちゃんと歌ってる部分だってあるのだ。(声楽に明るいわけじゃないから本当のところ知らないけど)
そういうわけで、下手をするとうるさいだけの音楽になるところをカタルシスを得るに足るタイトさを出しているのである。
まあいわば、金満巨人の重量打線大当たりといった感じだろうか。
というと表現が悪いが、いやがらせのような暑苦しい音を、どうやったらカタルシスのある音楽にするかってのが実によく計算されていて、そしてそれを実現できる技術を持って演奏しているということで本当は凄いことをやっているのである。
(そして、アルバムのリリースを重ねるごとにその実験性は増していくのだけど、やはりこのアルバムかこの次くらいがバランス的には適度な気がする)

そんなわけで、こんなへんなジャケットだけど実はロック史に残る一枚になるんじゃないかってぐらいのこのアルバム。
CD屋で見かけたら、だまされたと思って是非聴いてみていただきたい。

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